ていねいに描いてくれていて、亮司・雪穂2人の心理描写も
うまく描けていてとてもよかった。
今回、しみじみとこの2人は本当に2人だけの世界の
中で生きているんだなあというのを感じたなあ。
倫理的には絶対に間違ったことをやっているのに、
被害に遭っている人達に感情移入できないくらいに、
2人に対していとしい目で見ている自分を強く感じた。
雪穂にとって、亮司という人間は、唯一の
『自分のために、親さえ殺してくれる人、そこまでやって
くれる人』なんだ。
それがいいことでないのは当たり前だけど、それでも、
人間は普通、幼少期にそのくらいの心意気で大事にされてこそ
まっとうに人を信じ、人を愛することの出来る大人に
なることが出来る。
というか、人が本来死ぬほど欲しいものが、そういう
自己犠牲の伴う愛情でもある。
親や、他の大人からそれをもらうことの出来なかった
雪穂に、唯一それをくれた人が亮司であり、そのときから、
雪穂の中で亮司という存在は、友達でもあり、初恋の
人でもあるのと同時に、“絶対的な親代わり”という
存在でもあったのだろう。
だから成長して再び亮司と出会ってからの雪穂は、
いつも亮司の愛を確かめるために無理難題を言う。
文句をいいながらもいつも言われるようにやってしまう
亮司だけが、雪穂にとって唯一の心のよりどころでもあり、
生きる証でもある。
それが、今回の流れでとてもよくわかり、雪穂という
女性が、自分のことしか考えないひどい悪女であるという
反面の、誰よりも愛を乞い続けている哀しい少女の姿に
一気に思い入れを今まで以上に感じてしまった。
一方の亮司は、雪穂の言うこと、やることの
すべての本質を知っていながらも、本能的に従って
しまう自分というものを、けしてこれでいいと思って
いるわけではないのに、それでもただ雪穂のためだけに
手を汚し続け、自らの“善”を消し続けていく。
その奥にあるのは、自分の父と自分が雪穂を不幸にして
しまったという負い目と、やはり親の愛に恵まれなかった
幼い日の自分の罪を「やったのは私だよ」と被ってくれた
雪穂にある種の“母親の愛”を見たからこその、変わりない
愛情なのではないかと思う。
2人とも生きて歩けば歩くほど不幸になっていく。
そして、どんどん太陽の下を手をつないで歩くことからは
遠ざかっていく。
そこにある一筋の光は、『ただ純愛のみ』
そのせつなさが泣けてしかたがない。